大沼 雅也

ユーザー・イノベーションとは、人工物の使い手であるユーザーが、自ら創造的な活動を行うことを指した概念です。これと関連する問題については、von Hippelの各種の議論を礎として、近年まで様々な研究が行われてきました。この手の議論の面白さは、主に三つあると私は考えています。一つは、企業の外側に存在する行為主体の創造的活動に焦点を当てていることであり、二つ目は、それが「金儲け」とは異なるインセンティブの下に行われることを議論している点です（例えば楽しさの追求、仲間からの承認、社会的な価値）。三つ目は、ユーザー間の相互作用（コミュニティ内の活動）を通じた創造的活動を分析の射程に入れていることです。このような視点は、今後の社会におけるイノベーションを読み解く上で重要なものであると思います。各種の技術発展やグローバルな高等教育の普及によって、イノベーションの種（知識）を持つ人は、以前よりも地理的に分散して存在しています。そうした状況になればなるほど、既存の企業とは異なる主体がイノベーションの担い手として活躍するようになるはずです。ユーザーイノベーションに関する議論は、こうした新たな状況の一端を理解することに役立つと考えることができます。